Dr.中川のがんから死生をみつめる:/11 心臓停止と臓器の死
Dr.中川先生のコラムです。
<死> 生物の<死>とは何かについてのお話です。
Dr.中川のがんから死生をみつめる:/11 心臓停止と臓器の死
<以下、記事の引用です>
Dr.中川のがんから死生をみつめる:/11 心臓停止と臓器の死再び、生物の「死」について考えてみたいと思います。
多細胞生物の死には、個々の細胞の死と、個体としての死があります。毛が抜ける、皮膚の細胞が垢(あか)になるなど、からだを作る約60兆個の細胞の1%程度が毎日死んでいると言われています。しかし、個々の細胞が死んでも、私たちは、それが一人一人の個体の死を意味するとは考えません。
逆に、個体が「死んだ」からといって、その瞬間にすべての細胞が死ぬわけではありません。毎日1%の細胞が死んでいる「日常」から、全身すべての細胞が死にたえる瞬間まで、段階があるのです。「死」は、そのどこかの段階にあることになります。個体が死ぬ瞬間を、厳密に決めることは難しいのです。
脳は体重の2%の重さしかありませんが、酸素を20%も消費します。このため、心臓の拍動が止まると酸素不足になり、神経細胞がすぐ死に始めます。心臓、肝臓、肺、小腸といった臓器の細胞も心臓が止まると、すぐに死にます。これらの臓器が、心臓の停止後には移植できない理由です。心臓は動いている「脳死」の提供者(ドナー)から移植するしかないのです。
これに対し、腎臓は酸素不足にやや強く、心臓停止後1時間以内であれば移植できます。角膜はもっと長く生存でき、心臓停止後約10時間まで移植が可能です。個々の臓器や細胞が死ぬ時間は、まちまちなのです。
一方、法律上の死はただ一つの時刻です。そこに徐々に死んでいくという考え方はありません。死亡診断書には死亡時刻の欄があり、そこに、私たち医師が一つの時刻を記入します。この時刻こそが「生と死の境」ということになるのです。いってみれば、「制度で定められた死」です。
これまでの法律で、死を決める三つのポイントは、心臓の停止、呼吸の停止、瞳孔の散大でした。心臓、肺、脳という生命の維持に不可欠な三つの機能が停止すれば、死は後戻りできないものだからです。
一方、脳の死だけで人の死とする「脳死」と、これに関連する臓器移植法の改正が、大きな議論になっています。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)
